コロナ感染症の特徴的な現象

 コロナ感染拡大の大きな問題点は、感染者数に含まれていない無症状感染者の存在である。無症状感染者は上の図の「コロナ感染状態遷移図」において「感染要注意領域」に存在する「無発症感染」の状態にいる人のことである。コロナ菌を体内に有しているが発症していないため患者として認められていない人である。コロナ感染の場合、感染者の90%は無症状者であると言われている。無症状感染者のうちどの程度の人が感染源になるのかは定かでないが、感染初期段階の感染者は相当高い割合で感染源として寄与すると考えられる。オミクロン株の場合、感染から発症までの期間が3日程度で、この期間に他人に感染する確率が最も高いと言われている。無症状感染者は感染源でありながら感染者ではなく感受性の人口の中に含まれたり、隔離されずに市中を散策する被感染者が突然感染源になったりする現象を発生させる。無症状感染者はある時刻は関数S(t)に属し、ある時刻は関数I(t)に変化して感染源としての役割を発揮する。この現象が感染環境を複雑化し、S(t)やI(t)、βの値を複雑に変化させ感染制御を困難にする。

 コロナウィルスは10分程度で人体の細胞に侵入し、10時間あれば1個のウイルスが細胞内で1000個に増え、その1000個が他の細胞に感染し総計100万個のウイルスを外部に吐き出すと言われている。実際には体内の免疫力などが働いて発症しないケースが起きたり、軽症にとどまる場合があったり、感染環境などが影響して実効再生産性数は感染が拡大する場合でも1.0~2.0程度の範囲に収まっている。一つの閉鎖領域内ではこのような感染を生じさせる人の個体が多数集まって集団を形成し社会現象としての感染を発生させる。この閉鎖領域内で発生する感染現象を横軸に時間、縦軸に感染者数の累計をとって表した曲線がロジスティック曲線である。この曲線は時間とともに指数関数的に拡大・縮小していく感染や繁殖などの現象を表現することに利用される。曲線が示すように閉鎖領域内では感染は無限には拡大せず、ある規模まで拡大すると閉鎖領域内の影響を受けて必ず指数関数的に鎮静化する傾向を示す。

 曲線の中央に変曲点があり、変曲点の前では新規感染者数は増加し、反応速度の遅い人間系の抑制制御は追従不能になり、感染拡大を抑えることができない。変曲点後は新規感染者数は減少傾向を示す。この傾向は閉鎖領域内の微生物環境の特性に起因するもので、変曲点の前後で微生物の増殖条件が変化する。人の個体内の抗体量の変化や自然免疫条件、ワクチン接種率、無症状感染者を含めた被感染者数の変化、感受性人口の変化、飛沫感染・空気感染などの感染状態の変動、その集合体である閉鎖領域内の感染環境の変化などで特性曲線や変曲点は変化する。変曲点を過ぎてしばらくすると感染者数の減少率は大きく変化する。コロナ系の反応速度と人間系の反応速度の差による抑制効果のタイムラグも影響して新規感染者数は大幅に減少する。しかし、曲線が飽和値に近づくと減少率が小さくなり外部から付加された抑制効果の影響が大きくなるが、感受性人口が少なくなっているため新規感染者数は緩慢に減少するようになり、鎮静化には長時間が必要になる。この時点で安易に感染状況は改善されていると判断し規制緩和を行うと僅かに残っているウイルスや新しい変異株の影響を受けて感染拡大のきっかけをつくることになる。

 デルタ株は排出ウイルス量が多く、コロナ系の反応速度は人間系の反応速度よりも速く、感染拡大時にはロジスティック特性が示すように感染は急拡大し、感染減少時には人間系のタイムラグも付加されて一層急速に減少する。時間単位のコロナ系の反応速度に対して、週単位の人間系の反応速度では制御不能となり、ロジスティック特性に依存することになる。曲線が飽和値に近づくと減少量が緩慢になり、この状態で感染が鎮静化されていると判断し経済活性化を進めると、下げ止まりや再感染を発生させることになる。これは感染源となっている無症状感染者の存在を無視しているために生じる誤りである。無症状感染者を発症前に感染していることを検査で見つけることができれば、一定期間隔離して無感染状態になったのを確認して日常的な行動に復帰させることが可能になる。閉鎖領域から無症状感染者の感染源を取り除くことができると、新規感染者数を大幅に減少させることが可能になる。人流が増加しても感染源が少くなっているか無くなっていると感染は発生しない。しかし、感染した無症状感染者が一定期間経過後に非感染者になったり、再感染しない保証がなければ無症状感染者数が時間とともに変動し感染環境が不安定になる。現時点では検査で無症状感染者を見つけることが困難であるために無症状感染者の把握が不能でこの対策は実現できていない。

※状態遷移図に関する参考資料:「オートマトンと状態遷移図」参照

 感染情報に関連する社会の仕組みにも問題がある。コロナが人を介して感染していく反応速度(コロナ系反応速度)と人間の集団がそれの属する社会から情報を得て対策を講じる反応速度(人間系反応速度)を比較すると、前者が「分や時間、日」の単位であるのに対して、後者は「週や旬、月」の単位になり可なり遅い。この反応速度の差により、人の感染対策が遅れている間にコロナは更に感染を広めてしまう。リアルタイムに行動した人がコロナを介して素早く感染を広め、広めた結果の感染情報を2週間後に取得した人間がその情報を利用して後手の感染対策を実施する。

 コロナの感染拡大がある規模にまで達すると、感染拡大の増加率が減少傾向に転じ、その上に人の抑制作用が効果的に働くようになると感染拡大は増加から減少に変わり、新規感染者数は急速に減少する。その後、閉鎖領域内でのコロナの増加が飽和状態に近づくと人の抑制効果によって感染者数は減少し続けるが、抑制効果が緩和されると閉鎖領域内の感染環境が変化し、新規感染者数は下げ止まり状態になったり、再び増加する現象が現れるようになったりする。変異株の出現やイベントの開催などの現象が付加されると大きな感染波となり再成長する。

 情報を利用するタイミングによって、感染が急激に減少したり、感染鎮静化の傾向が下げ止まり状態になったり、急速な感染拡大の現象が生じたりするようになる。感染力の高いデルタ株の場合、両者の反応速度の差が更に拡大し、感染速度を変化させ感染抑制作用を複雑にする。いずれの反応も人間の行動がきっかけになるが、コロナの反応速度が高速なのに対して人間系の反応速度が遅く制御が不十分になる。この現象を繰り返しながら波動を伴う感染を拡大させていくことになる。

 感染鎮静化を効果的に実現させる最も重要な時期は、新規感染者数が大幅に減少したタイミングであって、東京都の新規感染者数では100人/日前後の数値になった時であろう。この時期に行う対策としては、制限を緩和することではなく、一時的に規制を強化して数値が0近辺まで減少することを一定期間確認するか、または従来の規制を1ヶ月程度延長して数値が10人/日以下の日数が安定した状態で現れ、一定期間維持できるかどうかを確認することである。さもなければ、感染者数の減少理由が医科学的に適切に説明でき、多くの専門家が納得できるかどうかになる。この過程を得ずに政治家が規制緩和を強行するなら、失敗した場合は政治家が責任をとって辞める決心をさせてから実施するべきである。過去の例では、政治家の包括的にきめた判断の結果で多くの場合に失敗している。特に、コロナ系と人間系の社会結合条件が大きく変化する事態を発生させると閉鎖領域の感染環境が大きく変化して問題になる。国家的な大規模イベントの実施や水際対策の不備が原因で新しい変異株が国内に感染拡大するきっかけをつくらないことが重要である。

 最近の感染状況の話題の一つにオミクロン株の出現がある。問題になっているのは南アフリカであるが、遠い国の話であると考えていると水際対策が甘くなり、国内の感染者が明日にも発生するようなことになる。強力なウイルスは反応速度も速く、瞬く間に地球全土に感染を広める危険性がある。一人でも国内に感染者が現れると忽ち全国に感染が広まる危険性が高い。特に、季節の条件、ワクチン接種時期の条件、現在の新規感染者数の条件などを考えると警戒が必要である。早めに危険者の入国を禁止する対策が必要だ。欧米やアジアの国ではそのような対策を既に実施しつつある。手遅れにならないように早めの対策が重要になる。特に、年末年始は人の往来も激しく対策が不可欠である。

 「密に関する考え方」で重要なのは、密に参加する人数の自乗倍に比例して蜜の発生機会が増加することである。参加者が10人と1万人とを比較すると、人数的には1000倍であるが、蜜の発生機会は100万倍になる。旅行やイベントのような日常と異なる生活様式で暮らす場合、蜜の発生条件は更に数倍になり、政府が奨励する事業という条件が加わると国民は楽観的になり、一層安易な行動を行い感染のチャンスを高める。これらの内容から分かることは、10人が移動する蜜と1万人が移動する蜜を比較すると、密の発生割合は数百万倍以上になると言うことになる。

 感染症の数理モデルでは、感受性人口S(t)と感染者数I(t)の積に、感染確率βを乗じたβS(t)I(t)を用いて、時刻tにおける感染者数を求める。感受性人口は、対象とする閉鎖領域の全人口から感染者数を減じた値である。感染者数は、感染して隔離されている人数と感染後回復し抗体を確保した人数、自然免疫などで感染の危険性のなかった人数などを除いた値であり、閉鎖領域内に現存している感染源を有する人数になる。対象となる閉鎖領域は条件によって変動し、複数の閉鎖領域の組み合わせもある。関数S(t)、I(t)は、閉鎖領域におけるロジスティックモデルとして表すことができ、ロジスティック方程式の解として右図に示すロジスティック曲線が求められている。指数関数的に変化する閉鎖領域内のコロナの感染拡大・減少現象はロジスティック特性を利用して考えることができる。

 この曲線は、原点から一定時間経過すると関数値の増加率は急速に増大し、変曲点を過ぎると増加率は急速に減少しながら、その後、長時間かけて飽和値に近づいていく特徴がある。初期の段階(増加率極小)では感染拡大の増加を抑制できるが、急速に増加(増加率急増範囲)を示すようになると、コロナの感染速度が人間の抑制速度を大幅に上回るため感染を抑制することが困難になる。変曲点を過ぎ飽和値に近づく(増加率減少範囲)と、増加率も減少し外部からの抑制効果が現れると感染が減少する傾向が現れる。しかし、飽和値に近づく(飽和値近傍)と同時に抑制効果も薄れるようになり、感染を増加させるのに長時間が必要になるが、飽和値があるために感染が爆発的に発生しても、その値が無限大まで拡大することはなく感染数は次第に増加しなくなり、飽和値で一定値になる。ただ、感染数が減少するにつれて外部からの抑制効果も減少する傾向があるために、感染は減少から再び増加に転ずるようになり、この現象が感染波を発生させる原因になる。この感染波の発生を防止し限られた時間内に抑制効果を一層高めるには、今までの抑制作用よりも一段と強力な作用を追加するか、長時間かけて抑制作用を継続させるかのいずれかの手段が必要になる。

 感染の増加・減少の傾向はコロナのロジスティック曲線に従うため、最初のうちは感染の増加の割合は小さいが一定の時間が経過すると急激に増加し、短時間に新規感染者数が急増するようになる。しかし、変曲点を過ぎると曲線の増加率が減少し、感染者数の増加も減少傾向になる。更に、外部からの抑制効果が働くと感染者数は減少に転じ、左図の赤い曲線(I)のような山型になる。初期の段階に効果的な感染対策を実施すれば、感染鎮静化の大きな成果を上げることができるが、感染情報も乏しく困難な場合が多い。ただ、過去の経験や教訓を活用できた場合には成功している。初期の対策に失敗しコロナのロジスティック特性に支配されるようになると、感染の急速な増加・減少を繰り返す事態になり、複数の感染波が現れるようになると大きな感染波が襲来するようになり、社会的な混乱を招くことになる。

 複数の感染波の襲来は、波間の下げ止まりレベルを次第に高くし、波毎に新たな変異ウイルスを招く危険性が生じる。東京都の実績では、第1波の下げ止まりの新規感染者数は30人/日程度であったが、第2波では150人/日、GoToトラベルの影響を受けた第3波では254人/日まで増加した。英国型の変異ウイルスの影響を受けた第4波では388人/日に増大し、第5波の感染拡大が進むにつれて日々の新規感染者数は5000人を超える状態が発生するようになった。その後、ロジスティック特性に支配されると、感染者数は減少に転じ、9月末から10月中旬には100人/日前後まで鎮静化された。そこで、感染対策の現状を維持するか、または、強化した感染対策を実施して安全性の検証を一定期間確証すると、感染状況が改善された数値を得ることができ感染対策の新たな手段を生み出すこともできる。しかし、直ちに宣言を解除し経済活動を再開すると、経済の活性化と共に感染が再び拡大し、最悪の場合には感染再拡大に発展することになる。この間に適切な処理を行うにはリスク管理の基本的考えを取り入れた体制の整備が必要になる。

 コロナ禍での感染制御を困難にしている要因には、無症状感染者の存在、感染管理に関する社会システムの不備、コロナ系と人間系の反応速度の差、動的に変動する閉鎖領域に対する認識度不足、感染の増減現象に関連する要因についてコロナ系と人間系を分離した評価の不足、感染拡大時と感染減少時の影響要因とその結果に関する評価不足などの感染状況が適切に評価されていない問題が考えられる。第5波で感染の拡大や縮小が行われている場合、拡大・縮小に関連して人間系で行われている現象、コロナ系で行われている現象を想定し、その両者を関連づけた感染現象をモデル化し評価しないと実態が見えてこないことになる。人流が増加しているのに感染者が減少している理由が不明になり、今まで検討した内容が間違っていたのではと疑ったり、データ上の結果がよい方向に動いているという理由から深く検討せずに包括的な対策を実施して満足してしまうことになる。モデルを仮設し、そのモデルを利用して適切に説明ができるかどうかを絶えず検証しながら、その結果に基づいてモデルを修正したり、更に必要な新しいデータを入手してモデルの適正化を進めることを繰り返していると、現象の評価が適切に可能となり効果的な新しい対策を考案できるようになる。

※COVID-19 数理モデル参考資料:「感染症はどのように広がるか

感染対策推進のためのリスク管理体制の整備

 GoToトラベル実施やオリンピック開催のような世界規模のイベントを実施すると、その目的に沿って多数の人を移動させ、高密度を発生させる要因になる。高密度が発生すると途中の道中や目的地も含めて動的人口を一時的に増大させ、経済効果が期待できる反面、ウイルス感染を拡大させることになる。更に、政府が推進するイベントとなると、国民も寛大になり日常行動すら楽天的に実行するようになる。また、緊急事態宣言とオリンピック開催という矛盾した要求を政府が行うと、国民は楽な方の行動を選択し、宣言を無視してオリンピックムードで行動するようになる。その結果、人流は減少しないで増加傾向になり、感染は拡大する。お祭りムードで無症状感染者の行動が活発になると市中感染が増加し、ステイホームで家庭でのオリンピック観戦と組み合わさると家族間感染を広めることになる。家族間感染で感染症対策の最後の砦である家庭内の安全性も失われるようになり、人は安全な居場所を失うことになる。

 日本の場合、ロックダウンを効果的に実行するための法整備や社会システムの整備が不十分であり、決定的な手段が実行できない状態にある。政治家やリーダー達のリスク管理に対応できる能力も低い。コロナの防疫体制に関する関心度も認識度も低く、場当たり的な対応を繰り返すのみで、リスク管理の基本的な考え方、進め方も不十分である。現政府が積極的に効果的な対策を推進できるとは言えない状態にある。オリンピック体制に関しても、開会式直前まで活用ルールも不十分な状態で大会関係者への訓練すら十分にできていない状態であった。一つの行動を行えば一つの問題が発生し変更が必要になる。開催を順次進めると、至る所で問題が発生し、混乱を招くことになる。このような状況を繰り返していると、民主的な社会よりも専制的な社会の方が庶民には幸福である等の説が世間に出回るようになり人心を混乱させることになる。

 海外からの感染源の国内への移動も禁止しないと問題が生じる。海外からの人々をPCR検査の強化や管理ルールの適用などで感染源の流入が防止できるなどの考えは手ぬるい対策であり役に立たない。PCR検査では無症状感染者を検出できないからである。選手や関係者の中に無症状感染者が含まれる場合、行動管理すら無意味となり感染を拡大させる。海外からの感染源の侵入防止手段は外国人の入国を禁止する方法が有効な手段になる。それも現状は十分ではない。変異種の英国型やインド型、南アフリカ型、南米型など入国検査で発見できずに国内に感染を広めている。

 この6月に英国で行われたG7サミットで、開催地域のコロナ感染者数が開催前に比較して40倍の感染拡大をもたらしたと報道されている。英国は国民の50%以上がワクチン接種を完了している国である。防疫対策を実施していた国でインド型の変異ウイルスに置換わる段階にサミットは開催された。世界中から多くの報道陣や関係者が英国に入国する。報道陣などの多くの関係者が行動し、大きな人流を限られた地域で発生させる。これらの要因が感染を拡大させている。英国では直ちにロックダウンを再実施した。東京オリンピックはG7サミットよりも大規模なイベントである。どれだけの対策を実施しても、コロナの感染を予防することはイベントを実施する限りは不可能である。オリ・パラが世界的な問題を引き起こすことにならなければよいが不明だ。政府や組織関係者は「安全・安心な実施」を主張しているが確証はない。実態はそんなに甘くないだろう。「確実に感染は拡大する」と断言した方がよさそうだ。

 このようなミスを犯すのもコロナに関する情報や知識が少ないためである。情報量が少なく、コロナの感染に関する知識や感染者の症状や行動に関わる詳しい情報などが提供されないため、多くの人が共通の関心を持つためのタネがなく、各自自分に都合のいい内容のみを利用して曖昧に考え、行動しているに過ぎない。これでは効果的な行動にならないであろう。政府関係者のパンデミックに関する認識度も低く、数ヶ月か1年足らずで問題が解決すると判断し、治療に関する検討や経済再生のためのタイミングなどに焦点を合わせ、それに関連するメンバーが集まり対策組織が検討された。その結果、短期的な観点での検討が進められて、行動が場当たり的になってしまい、2~3年の中期的な視点に立った考え方を平行して行うことが疎かになってしまった。感染防止対策重視の観点に立った組織化が必要だった。

 過去に政府が行った行動のように、目先の利益を優先して感染状況の分析も不十分なまま、感染対策に目をつぶり、GoToトラベル事業を推進させた行動などが具体的な例である。「GoToトラベルは感染拡大の原因になっていない」とか、「GoToトラベルが感染拡大の原因である科学的根拠がない」などの意味の無い発言も繰り返えされた。その後の対策も不十分の連続となり、水際対策の失敗や感染拡大防止対策の失敗を招いしまった。

 このような事態に至らないための鉄則は昔からあった。その鉄則を昨年来着実に実行した国は既に鎮静化を実現している。その鉄則は、昔の人達が体験によって生活習慣の中に取り入れて、培った社会の教訓である。過去に感染症やパンデミックに遭遇し、その時に、人類が体験した結果に基づく生活の知恵の集積とも言える教訓である。その原則は「検査と隔離」をどのように徹底して、素早い検査と厳格に管理された隔離を実現するかである。

 日本と同じ島国の台湾やニュージランドは、昔からの教訓を活用して成功している。経済再生も少しずつ進んでいる。そのような教訓は日本にも昔からあった。厚労省の原則に、感染源の排除、感染経路の遮断、宿主抵抗力の向上があると聞く。この3原則は、検査、隔離、ワクチン対策のことである。コロナ対策の場合、水際対策の強化を加えると基本対策としては素晴らしい内容になる。この内容を具体的な行動として実現させれば良いことであった。しかし、日本の首相や政府関係者はその原則や教訓を取り入れ、理解し、活用しようとしなかった。その内容を真に理解し、素直に、それを実行していれば初期の段階に鎮静化を進められた。それを怠り経済再生を意識しすぎて、GoToトラベル事業を推進し、次から次と誤りを犯してしまった。その結果、大幅な感染拡大につながり、感染拡大の繰り返しで強力な変異ウイルスを生み出し感染状態を複雑化した。

 過去の非科学的な愚かな政権のように、無計画に場当たり的に行う政策の実行は成功にたどり着けずに頓挫していくケースが多い。最後には、オリ・パラの開催と緊急事態宣言の発出という矛盾する政策を実行することになり、社会を分断させる条件を造り出した。このことはリーダーとして大きな誤りを犯したことになる。「虚飾と傲慢」な態度の政治は、「正義と責任」を伴った成果を生み出すことができないことを認識すべきだ。過ちが社会を100年昔に戻ってしまう。

「ポストコロナ」社会に向けて

 コロナ感染拡大の問題は時間とともに解決していく問題であるが、どの程度の時間になるのか、現時点では未知数である。しかし、コロナ対策の基本的な考え方や対処方針を明確にし、共生の原理、再生の原理を取り入れて解決しなければならない問題である。更に、もう一歩進めて、戦後構築した社会構造上の問題点の見直し、コロナ危機に伴って現れた社会構造的な不備を明確にし、その他の問題解決と併せて、将来の人間社会のあり方、生活のあり方、社会福祉や自然災害などへの強靱で柔軟な対応力をもった社会の構築を図るべきである。

 コロナ危機をチャンスとして考えなければならないことは、「ウィズコロナ」ではなく「ポストコロナ」の社会イメージである。そのために、まず、「我慢の精神」を貫いて、当面の緊急の問題である感染防止対策に専念し鎮静化を完全に実現化することである、その後、本質的な問題として「ポストコロナ社会のイメージ」を求め、経済再生活動の推進と併せて新しい革新的な社会を構築するチャンスにしていかなければならない。当然、平成時代の日本社会の遅れを取り戻し、今までとは異なる強靱な社会構造や社会のしくみを求めなければならない。柔軟で、迅速かつ効率的な対応が期待できる社会の構築が可能となり、壊れかかっている日本社会の民主主義も見直されることになる。

 日本の国は、第二次世界大戦で失敗し、国民は大被害を受けた。殆どの人が財産を失い、家財道具も失い、生活のための職業も失い、衣食住もままならない状態に追い込まれた。都会の人は田舎に自ら出かけて、農家で作られている食料を買いあさらねばならない環境に追い込まれた。戦後の家庭の主婦の役割は家族の食料を確保することであった。子供は親に連れられて、地方の農家に買い出しに行くのが当たり前の日常生活であった。

 このような環境で育った若者は、国内の物資を豊富にする産業分野に職を求め、大卒も、高卒も、自分たちの生活基盤の強化を図ることに努めた。国の傾斜産業政策と国民の国家再建への努力とがマッチし、当時の大学卒や高校卒の必死の努力が実り、戦後30年足らずで、敗戦国と思えない復興を成し遂げた。社会に食料や商品が豊富になり、生活環境も整い、1975年頃には多くの人々が満足する豊かさを味わえる生活水準を得ることができた。
 戦争も感染症も、社会の経済的環境への影響は同じような状態を造り出すと言われている。戦争は戦禍によってすべてのものが失われてしまうが、感染症は戦争ほどに物は消滅しない。しかし、人々が感染症から受ける精神的ダメージは大きく、人の行動がうまく機能しなくなり、それが経済活動に影響し、社会に大きなダメージを与えることになる。そして、一定時間が経過すると、戦争の敗戦による影響以上の社会的損失、経済的損失を経験することになる。その損失の大小は感染症の沈静化に要した時間に比例する。だから、感染症が発生すると、初期段階に短期間に鎮静化させることに専念する。その後に、根気よく経済の再生を進める。通常は、二頭を追う愚策は考えない。

 可能な限り短期間に再生を進める場合、国民やその地域の住民に、現在の事態を認識させるための情報提供のタイミングとその手法が、その結果を大きく左右する。そのために的確な情報を国民に提供し、国民に適切な行動を起こせる説明能力を持った優れたリーダの存在が重要になる。リーダは率先して、国民に情報を発信し、国民の組織化を図り、国民に適切に行動させることに専念する。国民の参画行動が成果をもたらすからである。これも今までの経験で得ている教訓である。日本の現状は、リーダ達がこのような条件を満たす能力を具備しているとは言えない。リーダ達の能力と責任感の欠如が問題になる。国民を組織化し適切な情報を提供し自ら範を示し行動させる指導力に欠けている。

 新型コロナ危機は、人類が歴史上経験する大災禍の事件である。パンデミックである。過去のこれらの大災禍時には、時代を変革させる新しい考え方が同時に創世され、復興と新しい時代の建設が同時に進められて社会が進展し、歴史が塗り替えられた。パンデミックであるコロナ危機も、新しい世界の歴史をスタートさせる変革のタイミングであると考えると意義深い事件となる。必要なことは、これまでの社会の実態を的確に把握し、真実をしっかり認識し、社会の問題点を適切に把握して、当面の対策を着実に設定・実行しながら、更に、今後の新しい社会に役立つ行動を中長期的な視点に立って、進めていけるかどうかである。目先の小手先的な行動や場当たり的な行動ではパンデミックからの脱却すら図ることはできない。的確な計画とスケジューリングを作成するための推進チームの組織化が重要である。チームの推進リーダの選出や優秀なチームメンバーを集め、適切な推進母体を結成できることが不可欠である。

 この変革、革新を実現させるための賢明な努力を、世界のリーダ達や日本のリーダ達に期待したい。これは、リーダ達の重要な課題であり、責任だと考える。国家間の駆け引きや個人間の策略、覇権欲や権力欲、利益欲、陰謀など、国や個人のエゴを捨て、この課題に向かって行動することだ。そうすれば、地球温暖化や核廃絶の問題も、世界の平和と豊かさの向上も、災害に強靱な社会の構築も、新しい技術に支えられた夢の世界の実現も期待できる。

 喜ぶのは世界の生き物達であり、人類も最高の幸せを感じ取れることであろう。さもなくば、人類も、地球も滅亡してしまう。コロナ危機は人類にそのことを教えてくれているのだ。